日時 : 2001年6月23日 15:33

　このページを開設された、あなたの「まじめさ」は疑いません。が、それにしても性暴力・性犯罪の実態をもうちょっとお勉強してからにしてね、と言いたくなる出来ですね。

　読みながら、反論を書きながら・・・としていました。たった今開けた「ご意見欄」で、１２年８月１６日付「あぼさん」への反論を拝読しました。「女性からのメールが少ないのはセクハラに遭った女性が少ないからではないか」だそうですね。

あなたの言葉をそのままお返しします。「人を信用しないで、偏りを感じるのはよくないと思います」　これが、あなたの視点と、このＨＰの出来具合を見事なまでに露呈していると思います。

　セクハラや、その他性犯罪を語るためには、語りながら当時を思い出す必要があります。どこの誰が好き好んであの「つらい思い」をあえて追体験しようとするでしょうか。よほどの必要性か、互いの信頼感があってこそです。女性からのアクセスが少ないのは、むしろ多くの人がセクハラの被害に遭い、それを人に訴えたところで自分方が非難されるという、苦い体験を持っているからです。そう、このページで田中のさんがさんざ「貶められている」ように。

　このＨＰに自分の被害を告白しようと思う体験者はいないでしょう。田中さんと同じ目に、かつて遭った酷い目にもう一度遭遇するだけですから。そしてまじめに性暴力を考える人は、誤解・偏見・ノック事件への事実誤認の多さに疲れ果て、反論をあきらめるでしょう。「オトコってこんなもんよね」という具合にセクハラを「嫌だけどしかたない」とあきらめている人は、「ま、こんなもんよね」とわざわざコメントなんてしないでしょう。

　女性からの反論が少ないのは、このＨＰが自称「中立」でありながら、しっかり「田中さん批判・ノック事件は陰謀説」にはまってしまっているからです。

　その根拠もおかしかったりします。「あぼさん」への反論に、「裁判所に書類を提出するには３日はかかる」と自信たっぷりに書いておられますが、これって「民事裁判」のことじゃありません？　田中さんが翌日行ったのは、刑事裁判です。警察または検察にが告訴状を持ち込み受理されれば完了です。「それにしたって書類作成には数日かかる」と言われそうですが、緊急事態となれば、それこそ通常の「３日」なんて吹っ飛びます。何でそんなに自信を持って言えるか、って？　「私も経験があるから」です。

　さあ、これでＯＫですね。私もセクハラ体験者です。このＨＰではレッドマーク（でしたっけ）ものの希少動物ですね。

　女性のメールの少なさを、「セクハラの被害に遭った女性は少ないのではないか」とお書きになるあなた。書店でセクハラに関する「いろはのい」程度の入門書すら手にしていないことが「丸わかり」です。そしてこのページへの女性のメールが少ないのは、メールを打とうという気力を無くすほど、このページが女性を傷つけて、あるいはあきれさせているからです。雪印問題など社会一般への興味をお持ちなのは結構ですが、どのような問題にも「個別の領域」というものがあります。セクハラ実体験者の私としては、セクハラを含め性暴力の事実関係をまず調べること（どの程度の人が告発し、そのうち刑事告訴したものはどの程度起訴され・・・など）、次に被害者の心理的側面に目を向けること（これもちょっと書店をのぞけば、最近はいい本がたくさん出ています）。ともかく、お勉強なさい、ということですね。それが嫌なら、ノック事件：性暴力事件をメインにしたこのページはいったん閉じて、マスコミ報道の問題なら「雪印」を題材にするなどしたページとして立ち上げることをお勧めします。

以下、少し反論を書くつもりがやたら長くなってしまった文章が続きます。これでも「具体的に反論しよう」と思う作業のほんの取っ掛かりにしか過ぎません。ご興味がありましたら、どうぞ。なお、今のところは最初の文章も含め「ご意見欄」への掲示は差し控えてください。どのみち長すぎて載せられないでしょうしね。

　�@匿名報道に関して

　「やはり実名を出すべきだ」という結論に達せられたようで　　すが、まずはここからからして机上の空論、現実を知らない暴論です・・・。実に酷い話ですが、今の日本では「性暴力の被害を語ることがポルノになる」のです。つまり、実名で被害を証言したら、その人は望むと望まないとに関わらず「その日からポルノ小説の主人公」。

　「そんなことはない」おっしゃるあなたの声が聞こえてきそうですが、事実「性暴力裁判だけ」の傍聴を専門に行う人たちが存在します。一体わざわざ何のためでしょうね。それに、ただでさえ強い「性犯罪被害者への偏見」。このＨＰの「意見欄」にも載ってましたが、特定党派の陰謀説、田中さんは加害者だ、説などなど。実名を挙げれば、彼女はこういう中傷の嵐の中に巻き込まれてしまうわけです。それこそ「人生もずたずた」です。その危惧があるからこそ、性暴力被害者の中で告発するのはわずかです。匿名での告発・裁判は、女性たちの必死の運動の上にやっと勝ち取ったものです(詳細は福岡セクハラ裁判の記録『職場の常識が変わる』インパクト出版をご覧下さい）。

　この考察の最後に、「ノックの人生を抹殺するのであれば・・・」これって一番タチの悪い一見「正論」ですね。喧嘩両成敗みたいで一見すっきりしていますが、犯罪行為の告発は喧嘩ではありません。加害者は自分の行為の責任として、その結果を引き受けるだけです。ことわざにもあるでしょ、「自業自得」って。小学生レベルですよ、これ。何で犯罪被害者が、加害者の行動の責任を引き受けにゃならんのでしょうね？　それから何か強盗の家族の例を出していたようですが、これも意味がわかりません。「強盗事件の際には被害者は実名で報道される」ことを言いたかったのかもしれませんが、最近は、犯罪被害者保護の観点から、どのような犯罪であれ、被害者の顔写真はおろか「実名報道」も必要あるのか、という議論にまで達しています。あなたの論理は典型的な「強者の論理」です。今一度、自分が性犯罪の現実、そして被害者を取り巻く状況に対して「あまりにも何も知らない」という前提にたって、女性の側からの発信（できたら田中さん以外の本の一冊でも読んで）もう一度「ノック事件」のことを見直してみてください。

�A「被害者として不自然」？　根拠は何ですか？　それに「被害者の自然な行動とは何ですか？　朝日新聞の記事へのコメントに「翌日に裁判というのは不自然だ。このことも見抜けない記者は・・・」との類のことが書いてありましたが、なぜ「不自然」と断言できるのですか？　それほどあなたは「被害者とともに語り合った」経験があるのですか？それに、「翌日に裁判」ということから間違いです。翌日行ったのは告訴です。しかも投票日は翌々日。「こんな人を知事にしたくない」と思ったら、その日に告訴しなければ間に合わないではないですか。田中さんの決断は、「待ったなし、ギリギリの線」での決断だったのです。

　「告訴＝裁判じゃないか。そんなに簡単に決断できるなんて不自然だ」との反論がこれまた聞こえてきそうです。でも田中さんとてすぐに決断がついたわけではないことは、メールのやりとりでお分かりでしょうし、ましてやもう発売されている著書をお読みになれば、彼女が不安にふるえ、うろたえ、明日のアルバイトに行きたくはないけれど・・・と、告発どころか、実に「被害者らしく」状況も何も判断できない状態だったのです。この状況から「告発しよう」との決心までは一見短く感じられるかもしれません。でも被害者には強気になったり弱きになったりする「気持ちの揺れ」があり、田中さんの気持ちが強気に揺れた時には、もうどのように告発しようか、とか考える時間がなかったことは先に述べたとおりです。

　朝日の記者はおそらく女性でしょう。だからこそ、田中さんの行動が不自然ではないことが実感としてわかったんだと思います。女性はいつでもセクハラ・性暴力の対象となりますから。それから決断したにしてもすぐ提訴とは、これも「女子大生にしては手際がいい」から不自然だ、とお思いになる根拠かもしれませんね。でも、きょうび、セクハラ・性暴力問題を多く扱い、専門家ともいえる弁護士がいないとでもお思いですか？　依頼人の決意を確かめたら、それを現実にすべく迅速に行動するのがプロってもんですよね。決断をしたのは田中さんでしょうが、手続きその他、法的な対処をしたのは弁護士です。弁護士が法的対処に詳しくとも、これって何にも不自然ではないと思います。

　「そんなにすぐに弁護士がつくのが不自然なんだ」との、そろそろ怒気を含んだ反論が聞こえてくるようです。これに対しても「ちっとも不自然ではない」と言えます。まず、知り合いに弁護士がいる場合があります。次に、近くに弁護士事務所があることもあります。それに、知人が弁護士を知っている。その他、ボランティア団体などで、顧問あるいはアドバイザリースタッフとして弁護士がついているところもある。以上、ちょっと考えただけでも、すぐに弁護士に直結するルートはいくつもあります。田中さんが、たまたま弁護士とのルートを持っていたとて、少しも不自然ではありません。

�Aの最初の疑問に戻ります。あなたはどうしてこうも簡単に田中さんの行動を「不自然」だと決め付けることができたのですか？　そもそも「自然な行動」とはなんですか？　被害者の行動に対して「自然・不自然」と決める根拠を、あなたはどこから手に入れたのですか？

　�@で「被害事実を語る事がポルノになる」と書いたとき、おそらく「ポルノと現実との区別くらいはついている」との反論がくると思いました。それとからめて、少しお付き合いください。

　私は男が「ポルノと現実を区別する」ことを、どこまで現実にできているのか時に疑問に思います。性犯罪で検挙された男性には、「イライラしていた時、ポルノビデオのことが頭に浮かんで」など発言する人がいるそうです。刑事や検察官から「ビデオと現実は違うということがわからなかったのですか」とか尋問されたり。はあぁ〜ですね。　それに、ことさら「本番モノ」と銘打ったレイプものの「アダルトビデオ」の存　在。「知らないの？　あれってやらせだよ」との言い訳は通用しません。つまり、「本番：女性が本当に被害を受けている」というシチュエーションに「わくわく・うずうず」し、「欲情・発情」する男が現実にいるわけですね。それどころか、アダルトビデオそのままのやり口で女性を襲ったケースが実際にありました。最近の、女性をいきなりワゴン車に押し込んだり、スタンガンで脅したり、というのも荒っぽい手口も、ＡＶではなくとも何らかのメディアからの情報だろうな、と感じています。

　こういう現実ですから、性犯罪なんて、たとえ被害が本物でも、ポルノのネタか、よくて冗談の種。田中さんも著書の中で書いているように、「レポートかけへんだらセクハラするで」と言われたとのこと。ここでちょっと考えてみて下さい。自宅を放火された人に対して「○○せんだら放火したるで」と言う人がいたら、その人の品性を疑いませんか？　ＨＰから受けたあなたの印象では、きっと「けっ」てなもんで、その人を切って捨てると思います。もしも田中さんの本のこの部分を読んで、この男子学生にそこまでの気持ちを抱かなかったとしたら、やはりご自分のが、性暴力犯罪を軽く見る＝被害者の女性を傷つける存在であることを、今一度認識されたほうがいいと思います。

　もっと単純にあなたの思い込みを指摘することも可能です。

「あなたは実際に被害者に会ったことはありますか？」

「そしてその人の被害状況とその前後の行動を、思い込みを排して聞いたことはありますか？」　ない、と思います。たいていの人がそうですから。それなのになぜこうも簡単に「被害者として不自然だ」という発言が飛び出すのか。さて、ここで偏見。私は男性に「あなたが思う自然な被害者って、どんな被害者？」と聞いたことはありませんから。でも・・・・、あなたが思う「自然な被害者」って、ビデオやドラマや漫画に出てくるヒトたちではありませんか？　ちなみに作者はたいてい男性ですね。

　長いメールになってしまいましたが、ＨＰを開いた者の宿命だと思ってあきらめてください。ただ何にしても、このＨＰは、「ノック事件は性暴力犯罪である」という基本的認識と、事件の根幹の性暴力についてあまりにも、肝心なことを知らない・わかってないために、議論の出発点からしてずれてしまています。そのために、あなたのオハナシ（議論）は一見筋が通っているのですが、実に「問題アリ」の思考回路のもと、「あ〜、もう、このページ閉じてよ。他の被害者にとって罪悪だよ」という結論に達せざるをえませんでした。