元興寺の南に紀寺【現在は璉城寺（れんじょうじ）】がありますので、ついでに調べる気になりました。紀寺と書いて「きてら」と読みます。紀寺はよほど大きなお寺であったらしく、寺名から生まれたと思われる町名の紀寺町も、西、東、さらに北方、南方に分かれるほど広い町です。町の名前は、例えば川に沿った細長い集落ですと、上と中と下をつけて三つに分かれたりしますが、大きい土地がある時は、このように東西南北に発展していきます。
聖武天皇の勅願で行基が創建、後に紀有常が再興し紀寺と呼ばれるようになったと言われています。 聖武天皇がなにを願われたか判りませんが、聖武天皇の即位が724年ですから、その後になります。
これぐらいまでは、正しいのではないかと思っています。外に書かれていることで重要なことは、藤原京にあった紀寺が、平城京に移ってきたというものです。
橿原市のホームページ
http://www.city.kashihara.nara.jp/bunkazai/asuka/ind8.htm
に紀寺について、次の文章があります。
「飛鳥川の右岸、天香久山の西で北西方向にのびる微高地上に立地し、都が平城京へ遷都するとともに平城京外京に移転した寺の前身と考えられています。伽藍配置は南北中軸線上に南から南門・中門・金堂・講堂が一直線に並び、塔を金堂全面東側に配すると推定され、形態的に大官大寺と共通していることから、大官大寺の前身ではないかとも考えられています。この寺は藤原京条坊では左京八条二坊全域（4町）を占めています。創建年代については不明な点が多く、出土した軒丸瓦では天智朝（7世紀第3四半期）と考えられます。しかし、寺域や伽藍配置の計画線が、藤原京の土地区画に合致していることから、天智朝に中心伽藍の造営を開始し、藤原京条坊施行のころ寺域を整備したものと考えられます」
この寺の位置は、天香久山の南西で、大官大寺の西に位置するところに、「小山」というところがあります。藤原京条坊で表現しますと、左京八条二坊全域となります。
小笠原好彦氏が、「大和紀寺(小山廃寺)の性格と造営氏族」という論文の中で、ここで発掘された瓦から、推論を述べておられます。論文の要旨は、「紀寺｛きでら｝（小山｛こやま｝廃寺）は大和の飛鳥に建てられた７世紀後半の古代寺院で，小字キテラにあることから紀氏が造営した寺院とされている。『続日本紀』には紀寺の奴婢｛ぬひ｝を解放する記事があり，これによると天智朝に飛鳥に建てられていたことがわかる」との文章で始まり、素人の私にとっては、難解な文章ですが、私なりに解釈しますと、
①紀寺式と呼ばれる瓦のうち、古い瓦が、山背の大宅廃寺にも葺かれおり，紀寺と大宅廃寺は関係がある。
②この大宅廃寺の軒平瓦の一つである偏行忍冬唐草文の瓦当笵は，後に藤原宮の瓦窯に移動しており，この寺院を藤原氏の寺院とみなす考えがだされている。
③また平城京に建てられた興福寺の同笵軒瓦が出土する飛鳥の久米寺も藤原宮に軒瓦を供給している。二つの藤原氏の寺院が藤原宮の屋瓦生産に深く関与している。
回りまわって考えると、紀寺は、紀氏が作ったのではなく、藤原氏がつくったのではないか? (小笠原氏の文章は、この寺院も藤原氏ときわめて関連が深いものであったと推測する)
同じ場所を発掘して、橿原市のホームページは、小山の紀寺が、平城京に移ったと書いて
おられ、小笠原氏は、紀寺は、紀氏が作ったのではなく、藤原氏と関係が深いと推論して
おられます。両方とも専門家の見解のようですから、私の出る幕ではありませんが、この二つの文章を合作しますと、藤原京にあった紀寺は、元興寺が準備されたのと同様に、藤原氏によって、造られたとみなされます。
そうなりますと、どうして、朝廷ではなく藤原氏が作ったかということになります。
元興寺は、西、南、東の御霊信仰で囲まれていますと、No284で述べましたが、訂正しなければならないかも知れません。
元興寺の南に崇道天皇社があると書きましたが、確かにあるのですが、紀寺(璉城寺)の裏が崇道天皇社です。それは関係ありませんといえばそれまでですが、江戸時代に書かれた書物に『大和名所記 和州旧跡幽考 第四巻』があり、ここに紀寺のことが少し、書かれています。
添上郡
紀寺 紀寺口と言う所にあり。寺領二十石。
紀寺は旧名・(この部分になにか抜けていますか)城寺、行基菩薩の開基（縁起）。桓武天皇延暦二年十二月封戸を給いしなり（釈書）。其の後破壊におよびしかば紀有常再興せられしより紀寺と言う。又御霊の社は崇道天皇にてまします（宇智郡御霊縁起）。
この作者は、紀寺の御霊の社は崇道天皇であると思っていたことになります。その根拠は、宇智郡御霊縁起ですと書いています。
この記事が正しいとしますと、 紀寺は、以前は?城寺と言ったのだと書いています。平安時代になりますと、荒廃したので、紀有常が再興し、紀有常の「紀」をとって、同じ発音の「?城寺」を紀寺に変更したと受け取れます。 小笠原氏の論文のタイトルは、大和紀寺(小山廃寺)とはありますが、平城京の紀寺のことは、なにも書いてありません。
